やうなことも聞いてゐる。わたくしは南歐のダヌンチオあたりの短かいものなども面白からうと、ひとりでさう考へてゐる。
 自由劇場は一の興行の主體として、損得の打算の上からは、或は成り立つてゆけぬ日が來るかも知れない。我々はその實際の經營には喙をさしばさむわけにはゆかない。然し自由劇場が存立する限り、外の劇場で遣ることの出來ぬ物をせいぜい見せてもらひたい。やゝもすれば沈滯がちな劇壇に新たな刺戟を與へ得れば、それで目的は達せられてゐるのではなからうか。先づ以てそれだけの目的を最小限度に決めて、極くじみに遣つていつてもらひたい。
 その中には新人の創作劇に優れた作品も出來て來るにちがひない。それを上場してゆくと共に、矢張高級なヂレツタントのために、西洋物の傑作を見せるところに、自由劇場の存在の意義と理由はあるものと思ふ。
 現在マネエジヤアとして小山内君の占める地位はまことに空前のかがやかしさである。わたくしはこれを小山内君の努力の致すところとして、なほ將來に對する熟考を祈つて止まぬものである。
[#地から2字上げ](明治四十二年十二月)



底本:「明治文學全集 99 明治文學囘顧録集(二)」筑摩書房
   1980(昭和55)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「飛雲抄」書物展望社
   1938(昭和13)年12月10日
初出:「新潮」新潮社
   1910(明治43)年1月
※初出時の表題は、「劇壇の新機運(自由劇場試演に就いて)」
入力:広橋はやみ
校正:川山隆
2007年8月14日作成
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