あつたかも知《し》れません。鑿《のみ》のような刃《やいば》のついてゐる一寸《いつすん》ぐらゐの小《ちひ》さい石斧《せきふ》もありますが、これは石斧《せきふ》といふよりも、石鑿《いしのみ》といつた方《ほう》が適《てき》してゐるように思《おも》はれます。今《いま》申《まを》したような石《いし》を磨《みが》いて造《つく》つた石斧《せきふ》を私共《わたしども》は磨製石斧《ませいせきふ》といつてゐます。(第三十九圖《だいさんじゆうくず》)
[#「第三十八圖 石器製作の圖」のキャプション付きの図(fig18371_39.png)入る]
 それからまた石斧《せきふ》の中《うち》に、磨《みが》いて造《つく》らずして、たゞ石《いし》を打《う》ちわつて造《つく》つたごく荒《あら》い粗末《そまつ》な斧《をの》があります。それには細長《ほそなが》い短册型《たんざくがた》のものもありますが、時《とき》には分銅型《ふんどうがた》のものもあります。これを打製石斧《だせいせきふ》といつてゐます。しかし打製石斧《だせいせきふ》には實際《じつさい》物《もの》を切《き》るために役立《やくだ》つ刃《やいば》がありません。それならば物《もの》を叩《たゝ》く槌《つち》に使《つか》ふものかといふに、それには餘《あま》り細工《さいく》が過《す》ぎてゐるようにも思《おも》はれるので、果《はた》して何《なに》に使《つか》はれたものか頗《すこぶ》る疑《うたが》はしいくらゐです。この打製石斧《だせいせきふ》は、ある場所《ばしよ》ではずいぶんたくさんに出《で》ます。今《いま》から二十年程前《にじゆうねんほどまへ》に私共《わたしども》が東京《とうきよう》の西《にし》、武藏《むさし》の深大寺《じんだいじ》といふ村《むら》の附近《ふきん》を歩《ある》くと、一時間《いちじかん》に何十本《なんじつぽん》となく拾《ひろ》ひ得《え》られました。その村《むら》の小學校《しようがつこう》には、生徒達《せいとたち》が拾《ひろ》つて來《き》た石斧《せきふ》を、教室内《きようしつない》に竝《なら》べてある五六十《ごろくじゆう》の机《つくゑ》の上《うへ》に一《いつ》ぱい山《やま》のように竝《なら》べてあるのを見《み》ました。その數《かず》は二千以上《にせんいじよう》もあつて實《じつ》に驚《おどろ》いた次第《しだい》でありました。こんなにたくさん打製石斧《だせいせきふ》のあるのは、あるひはこゝで石斧《せきふ》の半製品《はんせいひん》を造《つく》つて、各地《かくち》へ輸送《ゆそう》したものかも知《し》れないと思《おも》はれるのであります。かうした石斧《せきふ》などを探《さが》すのには、畑《はたけ》に轉《ころ》がつてゐる石《いし》を片端《かたはし》から調《しら》べて見《み》るとか、畑《はたけ》の傍《そば》の小溝《こみぞ》の中《なか》の石塊《いしころ》とか、畦《あぜ》に積《つ》まれた捨《す》て石《いし》の中《なか》を熱心《ねつしん》に探《さが》すに限《かぎ》ります。しかし蛇《へび》だとか、蜥蜴《とかげ》だとかゞ、石《いし》の間《あひだ》から飛《と》び出《だ》して驚《おどろ》かされることがありますから、注意《ちゆうい》しなければなりません。私《わたし》は九州《きゆうしゆう》へ旅行《りよこう》しました時《とき》、田圃《たんぼ》の溝《みぞ》の中《なか》に七寸《しちすん》ぐらゐもある大《おほ》きな磨製石斧《ませいせきふ》が潜航艇《せんこうてい》のように沈《しづ》んでゐるのを發見《はつけん》して拾《ひろ》ひ取《と》つたことがありますが、こんなやつを探《さが》し當《あ》てたときは非常《ひじよう》に愉快《ゆかい》です。一體《いつたい》これらの石斧《せきふ》を使用《しよう》するときはどうしたかといひますのに、石《いし》のまゝ握《にぎ》つて使《つか》つたものもありますが、木《き》の柄《え》を着《つ》けた場合《ばあひ》もありまして、稀《まれ》には腐《くさ》つた木《き》の柄《え》が附着《ふちやく》した石斧《せきふ》を發見《はつけん》することがあります。(第三十九圖《だいさんじゆうくず》5)
[#「第三十九圖 日本發見石器」のキャプション付きの図(fig18371_40.png)入る]
 石斧《せきふ》についでたくさんにあるのは、石《いし》の矢《や》の根《ね》(石鏃《せきぞく》)であります。石鏃《せきぞく》は磨製《ませい》もありますが、これは至《いた》つて數《かず》が少《すくな》く、出《で》る所《ところ》も限《かぎ》られてゐまして、たいていは打製《だせい》であります。燧石《ひうちいし》や黒曜石《こくようせき》や、安山岩《あんざんがん》の類《るい》で造《つく》つたものが多《おほ》いのでありますが、時《とき》には水晶《すいしよう》や瑪瑙《めのう
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