苦悶のしるしを拭ってやるものは勿論ない
つつましい生活の中の闘いに
せい一ぱい努めながら
つねに気弱な微笑ばかりに生きて来て
次第にふくれる優しい思いを胸におさえた
いちばん恥じらいやすい年頃の君の
やわらかい尻が天日《てんじつ》にさらされ
ひからびた便のよごれを
ときおり通る屍体さがしの人影が
呆《ほう》けた表情で見てゆくだけ、

それは残酷
それは苦悩
それは悲痛
いいえそれより
この屈辱をどうしよう!
すでに君は羞恥《しゅうち》を感ずることもないが
見たものの眼に灼きついて時と共に鮮やかに
心に沁みる屈辱、
それはもう君をはなれて
日本人ぜんたいに刻みこまれた屈辱だ!

  6

われわれはこの屈辱に耐えねばならぬ、
いついつまでも耐えねばならぬ、
ジープに轢《ひ》かれた子供の上に吹雪がかかる夕べも耐え
外国製の鉄甲《てつかぶと》とピストルに
日本の青春の血潮が噴きあがる五月にも耐え
自由が鎖につながれ
この国が無期限にれい属の繩目をうける日にも耐え

しかし君よ、耐えきれなくなる日が来たらどうしよう
たとえ君が小鳥のようにひろげた手で
死のかなたからなだめようとしても
恥じらい
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