類はやめておいた方がいいわよ」
他所事のようにそう云って私はひとりでクックッ笑ってしまいました。
「それよりお金のある方がいいんでしょう」
母は軽くそう云いました。
寐床にはいってから明日の予定をたてました。お天気がよかったら京都へあそびに行こうと決心しました。紅葉が丁度よい頃です。ぶらぶら人の行かないような道を選んで歩くのが私は好きでした。二三日前に、ピアノの売買を世話してわずかな謝礼金がはいりましたから、それで一日のんびりして来ようと、ほくほくしながら眠りについたのでした。
ところが翌日の朝。
父が今日は少し加減がいいから、私にしらべ物をしてくれと、そのリストをこしらえはじめました。売る物のリストです。出足をくらって少し不機嫌な私は父の机のそばにむっつり坐りました。十五六ばかりの品物が記されました。硯石や香合。白磁の壺、掛軸や色紙。セーブルのコーヒセット、るり色の派手なもので私の嫁入道具にすると云って一組だけ今まで売らずにいたのでした。それから銀器が五六点。
「雪子、これ土蔵から出しておいてくれ。それから東さんを呼んで来てね。だいたい値をかいておいたけれど、よくもう一度
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