時、私は自分の行為に対して自分の感情は非常に真実であったことは確かなのだ。真面目に自分を考えている。今度の勤めたいというのも、生きなければならないという無条件の標語を無理につくりだして、そのために就職することが必要になったわけだから私には私独特の云いわけがあるのだ。私は、父母に内緒で新聞広告を切抜き就職口を探して来た。履歴書をかいて、ある羅紗問屋に面会にゆき給仕になった。もう、父母は唖然としたまま私に何らの口出しをしなかった。大寒の最中であった。よれよれの紺の上衣を着、ほこりっぽいズボンをはいた私の青い皮膚はかさかさしており、目はどんより曇り、眉間や唇の端は、たびたび、ぴりぴりとけいれんし、あの子供の頃の英雄ぶりは、微塵もみられなかった。当時、十六歳である。
第七章
「失業者が、毎日の食べるものも食べられないで、職業安定所の前にうろついているのをみたことがあるかね、ふん」
これが私に与えられた店員の最初の言葉であった。勤続十年の太った女秘書が、私をかばってくれた。
「石岡さん、そんな考え方はいけないわよ。いいとこのお嬢さんでも、どしどし、社会へ出る経験しなくちゃ」
有
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