いであがり降りしようとしたりした。けれども私は、粘りっこい根気がなかったから、出来ないとなるとすぐ又他のことに手をつけた。
 しかし斯うした生活は長くつづかなかった。というのは、私は大人をしん底からうらみ、決してだまされはしまいぞ、という警戒心が起ったからである。その日から、私は、むっつりとした陰気な子になってしまった。
 ある日、それはたしか晴れていただろう。母と女中の手にひかれて、K百貨店へはじめてお買物のお供をさせられた。私は珍らしげに、いろんな形や色をみた。母は何を買ったのかわからなかったが、そのうち私は、洋服地の売場へお供した。と、すぐ目の前に大きな人形がくるくるとまわっている。私はすっかりそれに魅了されて、その前にじっと棒立になっていた。女中が傍に居り、母は何やら又そこで買物をして戻って来たが、私はどうしてもマネキンからはなれようとしない。さあ、帰りましょうとうながされても、嫌、あれ持ってかえるの、と私は云い張ってきかない。しまいには泣き出して、あれがほしいんだ、とさけび通した。母はほとほと困ってしまうし、支配人も、もみ手をしながら、他の玩具を私に与えて機嫌をとろうとする。
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