まじっとしていなけれはならなかった。私はその感触の中から次第に快いものを感じるようになった。私はふたたび目を閉じた。私は上体をその男の反対側にねじって手だけを彼の方にさし出しているような恰好で、次の乗換えの駅まで来た。その男も降りて何の感傷もなくさっさと違ったホームへ階段を降りて行った。
小さな箱のガタガタの電車にまたのりかえて、今度はポンポン蒸気船に二時間近くゆられた。島や岬や入江の間を、油をながして船はすすんでゆく。都会風のたった一人の娘っ子を、田舎の学生や男達はじろじろとみる。私は巾一米半位の上甲板に寐ころんで、空と雲と風のにおいにひたっていた。のどかな秋の夕ぐれであり、時折、ぴしゃっとしぶきのあがるのをみながら、孤独だということのさみしさを一人前に知ったような心になって、頬に涙をつたわせたりした。私は両手をにぎりしめた。先刻の男の手が頭の中に蜘蛛のようにはびこっていた。私は急に不潔なものにふれたような気持になって、水の面へ精一杯はげしい唾をはいた。白いあぶくは船の後へ流れて行った。
あたりがまっ暗になってしまった頃、こわれかかった汽笛が鳴った。目の前の島の船着場に小さなあか
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