まもない頃であった。丁度、盗難事件が起り、朝はやく来ることを禁じられるようになったので、私の習慣はなくされ、したがってだんだん片一方の極へ自分を動かせるようにもなった。
 私は友達を得ることは出来なかった。私立のこの学校のモットーは、しとやかに、さわやかに、ということであったから、まことに静かな女性達ばかりが私の附近に居るような気がして親しめなかった。別に友達がほしいとも思わなかったし、かえって、孤独であることが私の持つ第一に挙げられるべき個性のように思っていた。私は入学早々幹事になった。免状をもらって一年間号令をかける役を仰せつかった。朝礼では先頭にたっておらねばならなかった。私の声は低音で響きがあったから他の級長より目立って号令らしい号令であった。私にとってこの有難い役目で唯一つ迷惑なことは人数をかぞえることであった。朝、笛がなると整列させて、組の出席人員と、欠席人員を報告せねばならなかった。副級長と二人で後の方まで数えてゆく。私はどうしても、一、二三四……で二倍する――二列縦隊であるから――計算が出来ず、チューチュータコカイナ、そして左指一本折り、又、チューチュータコカイナで二本
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