る程度で、薬も服用していなかった。レントゲンにあらわれたかげの部分はさして広くもなく、神経を使わないでおればすぐに熱も降りた。私は退屈な時間をもてあましながら、読書も映画も強いてとっつきたくもなく、たわむれに絵をかいたりしてその間だけはわずかな慰みを見出していた。世間と急に没交渉になってしまったことは、別にさみしいとは思わなかった。人と人との愛情よりも、空気や自然の色彩の間を愛していることの方が私にはよいように思い始めた。
生き返ったことが不思議ではなく、一つの経験をしたというほか何の感慨もなく、体をこわしたことも、その原因をただす気さえ起らず、運命的なもののように思われた。流れに身を置いて、その流れてゆく方向に同じように流されてゆく自分を知った。いままでのたえずくりかえしていた事件に疲れたのかもしれない。身も心もアヴァンチュールを求めるほどの活溌さや自信を失ってしまっていた。情熱など更になかった。今まで着ていた衣をぬぎすてて、枯淡の世界へはいるのだと気付いた。いさぎよくはいってゆくのでもなく、そうかと云って若さに未練をもつこともなかった。唯なんとなく枯淡をあくがれたにすぎない。物慾
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