ったんだ。そしてのみ歩いたんだと云ってました。彼は、忘年会の約束があるなどぶっきら棒に云いました。別の喫茶店へはいり、少し話をはじめましたが、私の云うことにいちいち嫌味や皮肉を云うのです。私はおこっているのか、と問いました。何もおこってやしない。そしてすこぶる不機嫌なんです。私はその原因が、仕事の疲れだろうと思いこもうとしたのです。何かのことで、私の女友達の話が出ました。彼は、彼女にたよりしたんだと云いました。私ははっとしたんです。私には長い間、手紙をくれない。書く暇があるなら、どうして私へ手紙をくれないんだろう。その女友達への彼の手紙の内容が、どんなものであるにしろ、簡単なものであったにしろ、書いたということが、私の心を動揺させました。でも私は黙って居りました。彼は暫くして、忘年会へ出席するのがおくれると誰かに電話をしていました。私は、今迄の心の動揺を忘れて、彼に感謝しました。そして、駅の近くへのみに行ったのです。小母様。私はその時からのことを克明に記憶してます。でも克明に書くだけの心のゆとりをもっちゃいません。あまりにもその出来事は、今から近いところにあるんだし。でも、出来るだけ忠
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