むのは嫌よ。私云いましたね。三人の男の人のことを。三人のちがった愛情を、それぞれ感じながら、私、罪悪感に苦しむって。私、この三月、薬をのんで、失敗して生きかえりました。妻のある人を愛したんです。このこと、申し上げましたね。私は、生きかえって肺病になり、半年間、寝ている間、彼への愛情と憎悪に、ひどく自分をこまらせたんです。そして、にくみました。ものすごく。彼のことを人々に云いました。云う度に、彼への愛情がうすらいでゆくんだと、自分で独りぎめしながらね。病気がよくなって、彼に会った時、つめたい表情で、彼は私に、嫌味のようなことばかりを云ったもんです。私はもう自分の気持に終止符をうちました。そして、十一月頃、そうだ二十日なの、その日に、貸していた金額四千円をもらうため彼に会いました。彼はだまって、そっと、四千円出し、はやくしまえ、って云ったわ。それ迄に、私は、随分出たらめを云いました。結婚するんだ。来年。そんなことを、衝動的に、たくさん云ったのです。じっと私の顔をみてました。そして、次の木曜日、再会を、彼の方から云い出したんです。映画館の前で別れる時。握手した時。私は、自分で、彼をさげすめ、さげすめと号令しながら、だんだん、愛情を自分でみとめてしまうようになっちまった。小母さん、私はその夜、京都へ行って、別の人の、愛撫をうけたんです。彼のことを少しのべます。今、私がとても愛している人なんだ。病気で寝ている時、れもんをもって幾度か見舞に来てくれているうちに、私は愛というより、ほのぼのとした、わけのわからない感情を持ちはじめたのです。過去の人とは、まるでちがう性格だし、風貌だし、動きでした。だから、私は、過去の人とのやぶれた夢を彼に再現させようとしたのです。最初は勿論、インタレストだったかも知れません。でも、ものすごくひかれはじめました。彼の中には、清浄さだとか、純粋さは、見出せません。生活に淀んでいるみたい。おかしな表現かもしれませんが、谷川ではなしに、もう海に近い、そして船の油や、流れて来た、汚いものが浮んでいる川の中に、どこへでも行け、といった気儘気随でいる流れ木のような感じの人なんです。私は、会う度に、どんどんひっぱられてゆきました。彼も、私に、最初、興味とか、いたずら気しかもたなかったでしょうが、とても愛してくれました。十月頃だったか、いえ、九月の末頃かしら、一度、私すっかり、嫌いになったことがあります。それは、作曲家のT氏夫妻とのんでその後トーアロードで、知らぬ婦人にいたずらしたことです。大へんな侮辱を加えたんです。私は女だから、とてもそれを平気でみては居れませんでした。揚句の果、私のきらいな職業の巡査さんに、説教されたりして、いくら飲んでるからって、とてもその行為はゆるせなかったのです。その夜、泣きたいような気持でした。そして、やっぱり、私は過去の人を愛してるだろうと思ったりしたんです。だけどその後会う度に、そして手紙をもらう度に、私は自分の感情をおさえることが出来なくなりました。すっかりもう、その人のことが、心の大部分を占めはじめたのです。京都での夜、抱擁と接吻をうけて、私は、とても嬉しかったのです。過去の人を忘れてしまえと思いました。忘れられそうだった。単純よ。私は。
小母さん、だけど、私は、駄目。一週間おいて、過去の人に会った。駅で小一時間、待った。もう冷くしよう。彼には、通り一ぺんの挨拶でわかれてしまえと思った。私は、だけど何てひどい女でしょう。あの夜程、自己嫌悪にみちたことはありません。私は、彼とのみながら、お喋りしながら、又、自分の彼への愛をみとめてしまったのです。彼の本当の愛情を感じることが出来たんです。彼を私は誤解してたんです。彼はやっぱり、私を真実に愛してくれてました。現実とか、社会とか、そんなことをはなれて、愛し合うのだとお互い申し合せました。彼には子供が生れ、私は、その一人の、私にとって何かみえないつながりのあるその子供のことのために、彼の妻より一歩さがった、愛情をもちつづけはじめたんです。彼のことを悪く云い、そう思ってた私自身を、恥じました。大へんな罪悪感なんです。でも彼は私をとがめなかった。ゆるしてくれたのです。後悔しない。私は今幸せだ。私のその言葉に、彼は、喜んでくれたのです。二人で歩きました。小母さん。私達は、ある横道の、うすぐらい道のほとりにある、一部屋にはいりました。あなたの子供がほしい。私はさけんだのです。小母さん。私は真実それをねがった。だけど小母さん。私は、新しく愛した人の存在が、私のすぐ傍によこたわっていることに気づきました。別れるなんぞ云わない。又会う日までと云って、自動車から降りて行った過去のその人の後姿を見送って、一人になった時、私は、恐しさで一ぱいでした。私は家へかえり、
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