いそいでレター・ペーパーを、ペンをとり、新しく愛しているその人に、手紙をかきました。(いや、その翌日だったかも知れませんが)罪深い女だと。昔愛した人に会ったのだと。そして過去の彼を愛しているんだけど、その過去は、たちきられたものじゃない。現在につながる過去なんだ。手紙が彼のところへついた翌日だったか、その日か、彼は夜おそく、神戸へ来ました。そして、過去愛してたというのか、今なおかを私に問うたのです。私は、過去だと云ったんだ。過去はたしか。だけど、過去は現在につながっているのだ。やはり今も愛しているんだ、って云えなかった。別の感情で二人の人を愛しているなど、それは、実に卑劣ないいわけです。だけど、実際私は、そうだった。それは夏の太陽みたいな、輝かしい猛烈な愛情を求める気持と、静かないこいのような沈んだ青色のような愛情を求める気持と。だから私は、もう過去の人へ行動はしないつもりでした。
 小母さん。私は頭の中が整理出来ない。いや心の中を整理することが出来ない。だから、ゆっくり思い起して、事実をかいてゆきながら、ぬけているところもあるだろうと思います。だけど、私は小説書いてるのじゃない。正直な告白を、真実を綴っているのです。だから、ここにかかれたことは、すべて、まちがいなしに本当なんだ。本当の私の苦しみで本当の私の自責なんです。
 小母さん。順序よくかくことが出来ないし、字も荒れて来た。だけど私、止めないで書いている。
 小母さん。それから、未だ一人の男性が私の附近にいるのです。彼を、青白き大佐とよびましょう。そのいわくは後にして。彼とは、夏すぎに妙なお見合いをしたんです。病気がよくなり、だけど私にとって希望も何もなく、誰でもいいから結婚するわ、と洩らした言葉を、青白き大佐の兄貴がきいて、私と大佐を私の部屋で会わしめたんです。ところが、お互いに好きになれなかったため、何のはじらいもなく、ずけずけ云い合ったもんです。彼が作曲をしてたんだということをきいて、音楽のことなど、まるで色気もなく喋ったもんです。その後、家にレコードをききに来たり、お茶をのみに行ったりしましたが、私は、彼の才能に、びっくりしながら、好感さえも抱いてませんでした。今、商売人の青白き大佐が、音楽の話などして、郷愁ではすまされぬ心の動きを、私はにやにや笑って面白半分にみてました。私がひきあわせた作曲家のクヮ
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