う云った後に。
十三近くまで、私達は抱擁しあっておりました。しかし、二十二日とちがって、彼はとても冷淡で、邪慳でした。私はこのまま帰るのはどうしても嫌だと申しました。そして、又、車を降りてから歩き出したのです。一言云えば、何かつっかかられるので、私は黙っていました。何かのはずみで、私がどんな時でもあなたのことを考えていると云ったら、嘘をつけ、と高飛車に云われました。実際、私は一人で居る時も、大勢いる時も、彼のことを考えつづけてましたもの、それは本当なんです。彼は又、私の小説のことにこだわって、本当のことがどうして書けないのだ、など云います。踏切番のいない踏切をよこぎる時、私、このまま轢かれてしまいたいと思った位です。彼は、わけのわからぬことを云いつづけました。十三の駅近くへ戻り、私はやっぱりこんな状態で別れたくはないと云いました。そして、とあるのみ屋へ又はいったのです。小母様。そこで又、ある事件が起ったのです。
一人の若い男が非常にのんで居りました。スタンド式にたっているところです。さて、私と彼は、相変らずいがみあった感情のまま椅子にこしかけました。と、その男が、何かかんか云ってくるのです。最初はとても朗かに、話題を提供しはじめたので、私は別に不快じゃなかったのですが、私の肩に手をかけたりしはじめたのです。そうです。私は、その男の隣りに、だから、彼と男の真中にいたのです。私は、見知らぬ人に、体にふれられるの、とても嫌なんです。見知らぬ人でなくともそうなんです。だから、カーッとなりました。男は若輩の巡査かよた者のようでした。巡査であろうと思います。指に繃帯をして居りました。何かかんか云い出して来て、俺はこんな者だと披露し、私と彼の名前をきくのです。彼は、とても機嫌よくその男の話相手になりました。ところが私にとっては、その行為はさみしいことなんです。そのうち、又もや、男は私に肩組して来ました。そして、あなたは誰だというのです。その前に、彼にも誰だときき、彼は、本名と住所をかいて、彼に渡していました。私は、感情的に、皮膚的に男を嫌がっていました。ふと思いついたのです。私のハンドバッグの下に、封筒があったのを。その日、民芸品の店屋から、原稿を頼まれていて、二枚ばかり書いた後一二枚の白い原稿用紙が、その封筒にはいって手許にあったのです。私は、その封筒(じょうぶくろっての)
前へ
次へ
全32ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング