み歩きました。そして、何もかも忘れてしまいたいと思い、わざと酔っぱらおうとしたのです。そうです。その日のひる間、私はパーマネントをかけました。青白き大佐が、すすめていたことなんです。その軽々しくなった頭髪の感じ。だけど、私は、心の中にいやなものが沈滞してました。ますます自分をみにくくし、ますます自分をきらい、ますます自分をみじめにする。その翌朝、それは二十四日、又、青白き大佐に電話をしました。彼は不在でした。私の心の中には、自分の行為に相反するもの、鉄路のほとりの存在が強くきざみこまれているのです。それなら、どうしてすぐにでも彼の許へ行かないのでしょう。私は、大阪へゆきました。そして、富士氏に会いました。だが、鉄路のほとりへ電話は致しません。青白き大佐をよんだのです。その夜、クリスマスイーヴ。富士氏と、青白き大佐と私は、大阪で少しのみました。そして、青白き大佐と共に帰神したのです。鉄路のほとりへの愛情と、自分の矛盾した行為を、冷淡に自分でみとめながら。でも、神戸へ帰って、すぐに家へ電話しました。鉄路のほとりからの連絡がないものかと。ありませんでした。丁度、その日は、研究所のおしまいの日なんです。だけど私は行きませんでした。そして青白き大佐と又のみました。彼はひどく私に説教をしました。黒部へゆくなら、本気で死ぬなら、どうして黙って行かないのかと。一体行く気持の原因はそんなに軽々しく取止めることの出来るものであったのかと。私は、ほとんど話をきいておりません。唯もう鉄路のほとりのことで一ぱいなのです。私は、青白き大佐に、別れる時、私が出した手紙はよまないで下さいと申しました。そして私自身ほっとしたのです。やっぱり私はもう何もかもすててしまうんだと。唯、ひたすらに鉄路のほとりだけを愛するのだと。私は知合いに、逆瀬川にある一室を借りる旨申出ました。私は家を出て独りになって生活しようと考えました。そうして、家庭のことの苦しみに終止符を打てば、仕事だって出来るだろうと思いました。
 青白き大佐は手紙をよまぬことを約束してくれました。そしてその翌日、二十五日に会ったのです。彼は封をしてある私の手紙を私の前へ出しました。私はひったくって破り捨てたのです。何が書いてあるのかを青白き大佐は見事にあてました。契約書のこと。そうだと私はこたえました。大佐は、その理由を別に問わなかったのです。
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