何かを――させられた揚句、やっと受取ることが出来たのです。その金は、この間の研究所の公演の切符代。先に私が立替えてたものでした。私は又市電にのって、阪急へ。そして、急行にのりました。別に景色をみるでなく、いつものごとく、ぼんやりとしてました。私は乗物にのるのが好きで、その間、休息出来るのです。さて、時間は一時すぎでしたっけ、毎日新聞へ富士氏を訪ね、いやその前に、私は緑の島を訪問しました。彼は不在でした。何故訪問したか。唯、私の友人の作曲家のことを依煩するだけでした。もはや、何の感情も彼になかったのです。そして、富士氏と喫茶店で話をしました。よく私は死ぬんだ、とくちばしります。だから、彼には、又死ぬんだと笑顔で云いました。そうだ。その前に、私は大阪駅で黒部あたりの地図と時間表を買ってました。私は、富士氏と、冗談まじりに、その地図などみて喋り、彼は、又おいで、といって出て行きました。だけど、私はどうして先に切符を買っておかなかったのでしょう。それは、別に何の意志の働きもないことなのです。旅行する時、私はいつも、行きあたりばったりに切符を買う癖がついていたのです。東海道線で東京へゆくときも、山陽線で、西へ行く時も、先に切符をかっておくということはしたためしがなく、切符がなければ次の汽車で式でした。私は、喫茶店で一人になり、インキをかりて、原稿のつづきをかきはじめました。と、私に電話、鉄路のほとりからでした。三時にゆけぬ。六時にゆくというのです。私は待ってます。と答えて、仕事をつづけました。彼の声はとても優しい声でした。さて小一時間もたった時、ドアがあきはいって来た人、何と青白き大佐だったのです。私ははっとしました。その時の私の表情は、実にみにくかったと、彼は後で云ってましたが、彼は何か予感がしたためにやって来たのだと云いました。もう感じられています。私は、黒部へゆくといいました。そして、彼に契約証をかえしたのです。彼は、黒部へゆくのはよいけど、帰って来るようにといいました。私は、その時、何を喋ったのか記憶してません。へらへら冗談を云ったようです。でも、私の顔はひきつり、声はかすれていました。私は、罪深い女だと、そればかりが頭の中で右往左往していたようです。彼は、ゆくなら送るから、電話をしてくれ、と云いました。たしかにと私は約束し、彼は出て行きました。私の契約証を持って行っ
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