りに、彼は、俺に説教するつもりかと云った。そしてせせら笑いもしたのです。芝居の公演の時間がもう後わずか、作曲家の友人は先に出てゆき、私と彼は、いがみ合っている。もう時間もない。私は彼を駅へ送りに行った。私は、結婚してほしい、とねがったんです。青白き大佐との契約書を持っていながら。勿論、その契約書は、返却するつもりでした。でも、返却してから云うべきだったろうと今思います。彼はむずかしい顔をして帰ってゆきました。私は、自動車で、あわてて、会場へ戻り、さて、公演。自分の芝居が公演されるということは、とても単純によろこべないことです。演技者にも演出者にも私は本当に感謝してますけど、私自身とてもおちついてみることが出来ません。私は、一回目の公演が終り、夜になり、芝居のことよりも、鉄路のほとりのことで一ぱいでした。青白き大佐は、私に云いました。真剣に愛しているなら、二回目の公演が終れは、京都へ行くがいい。そして、もう仕事も何もほったらいいんだ。私は随分考えました。だけどやめたのです。芝居ほったらかしたら駄目だぞ、と鉄路のほとりにわかれる時云われたのです。私は行かぬことにしました。その日の公演の後、私は泣きじゃくりながら、酒を何杯ものみました。私は随分何か云いました。だけど本当の気持は、自己嫌悪で一ぱいだったのです。へたな台本、そして、きたない行為。そして、小説が書けないということ。そんなことが、私を無茶苦茶にしたのです。だけど、その中に、私の鉄路のほとりへの愛情は、どんどん深くなってゆくのを私はみとめました。朝が来るまで、私は、泣いて居りました。青白き大佐は、楽屋の寒いところで、私を慰めてくれました。私は、自分一人でどうすることも出来ないこの気持を、多少なりともわかってくれる青白き大佐に感謝すると共に、彼に頼る自分のみにくさに又責められるのでした。
 翌朝、ごめんなさい、という電報を私は、鉄路のほとりに打ちました。若しや、私の芝居の公演を、みに来てくれまいかと、客席を探したりもしたのです。私は、のみつづけました。最後の公演は、何だか悲しい気持でみていました。神経のたかぶりはおさまってましたけれど、これが、ひょっとすると最後の仕事じゃないかとも思って、そして自分のつくったせりふを、自分自身こだまして戻ってくることを、奇妙だ、(これは劇作家の人、どんな気持なのかわからないけれど)と
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