置を手伝ってくれてました。私が傍へゆくと、ぽんと私の頭をたたき、すぐに仕事をつづけてました。
それからいよいよ舞台稽古。鉄路のほとりと私は隣合せに腰かけました。彼はもう、芝居のことで一ぱいのようなんです。私はそのことでも私自身恥じました。さて、彼は、私に代って、随分、注意をしてくれたのです。それで、研究生達の間に少しいざこざが出たのですが、そのことはさておいて、丁度、私のものの上演の稽古が終った頃、もう朝です。もう一本の稽古がはじまりました。彼は客席で横になって寝てました。私は、毛布をかけながら、もうとても自分のみにくさが、彼の私への愛情に値しないようないたましい気持だったのです。青白き大佐は、用事をしに出かけてゆきました。私と鉄路のほとり、二人になる機会がおとずれました。二人で、おひる頃、コーヒーをのみに出たんです。ストーヴのある、会場の近くの喫茶店で、鉄路のほとりは大へん不機嫌だった。だけど、私は、もう、たまらなくなって、昨日のことを云ったのです。緑の島と会ったことを。彼は、黙ってました。いつまでも黙ってました。私に会いたくて、神戸まで来たことを私はきいていたんです。――まあいい、芝居の手伝いしたことだけで、いいんだ――彼は私にぶっつけるように云ったのです。二人が会ったのは、久方ぶりでした。だから私は、その前日に彼へ速達を出しているのです。とても不安な気持。出来るだけ早く会いたいということ。そして会ったその時、何とお互いにもつれてしまったのです。彼は帰ると云いました。私は泣きじゃくりながらひきとめました。駅までゆき、猶もひきとめました。丁度、作曲家の友人に出会い、彼もひきとめてくれたのです。喫茶店へはいりました。私はもうすっかり精神が錯乱しちまって、何を云ったのかわからない。一人で喋ったのです。
もう、つながりがないのだ、と彼が云ったからです。私は、がく然としたのです。今こそ、本当に緑の島とのことも解決されて、彼に何もかも奪ってほしい気持になってたのですから、その気持が強かったからこそ、私は彼の言葉におどろき、何とかして、愛情をよびもどそうとあせったのです。彼は、私の目に真実がないのだと云いました。そうだったかも知れない。私は、心のある部分で、緑の島を愛し、それから、安楽椅子をちゃんとつくったりしていたのだから。それは青白き大佐なんだ。痛ましかった。私のお喋
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