『いつかどこかで』をかけろよ」
「あら、思い出があるの?」
 その時、南原杉子は、はっきりと南原杉子になっていた。
「あるのよ、御主人との思い出よ。私が、ホールでうたっていた時、御会いしたのよ」
 仁科六郎は驚いた表情で南原杉子をみた。
「私ね。パートナーと踊りに行って酔っぱらったから、舞台にあがっちゃったの」
「いつかどこかで」がなり出した。
「女史、踊ってくれませんか」.
「いやよ、奥様と踊るわ」
 南原杉子は、蓬莱建介の方へにっと笑ってみせた。
「お杉、踊ってくださるの、うれしいわ」
 南原杉子は、蓬莱和子をかかえた。そして、もう、彼女の肉体に何も感じなかった.
「たか子さん、おかしいね、あの二人、あなたも踊られませんか」
「私、ちっとも知らないのです」
 踊っている蓬莱和子はふと身体をかたくした。南原杉子と自分。彼女は、自信がくずれてゆくのを知った。
「御疲れ、よしましょう」
 南原杉子は、蓬莱和子をいたわるように椅子にすわらせた。
 五人は、御酒をのんだり、御馳走をたべたりするうちに、わだかまりをとかしはじめた。しかし、この際、わだかまりがとけるということは、非常に危険なので
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