彼女があらわれたら。あんまりかんばしくないことだ――
彼は、南原杉子とすっかり関係をたつべきだと考えていた。然し、浮気をよす心算ではない。ワイフの知っている女との関係など、物騒だと思ったのだ。
気づまりな空気にならないように、さかんに喋るのが蓬莱和子であったが、本当は、自分の注目をひきたいような言葉ばかりであった。
「この真珠のいわくを申しましょうか」
彼女は、仁科たか子にささやいた。
「たか子さん、うちの女房は大へんな女房ですよ。僕に浮気したら背広買ったげると云ってね、出来なかったから真珠を買わされたのですよ。相手は、もうじきあらわれるだろうところの南原女史。浮気は出来ない。真珠は買わされる。さんざんです」
蓬莱建介が笑いながら云った。たか子は、目の前の夫婦が不思議だと思った。仁科六郎は不愉快でならなかった。だが、快活をよそおわねばならないと思った。
「たか子。僕が浮気したらどうする?」
「いやですわ、冗談おっしゃっちゃ」
「たか子さん、御心配御無用よ。六ちゃんは絶対大丈夫。私が太鼓判を押すわ」
たか子は素直に笑った。蓬莱和子は悠然と頬笑んだ。彼女は、誰からも信頼され、誰か
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