た。香水のにおいがよく悲劇をもたらせてしまうことを彼女はフランスの小説で知っていたからである。
――阿難、今日は阿難、じっとしていてね。その代り、南原杉子の肉体は、もうほんとにすっかり阿難のものとなっているのよ。今日、無言のうちに蓬莱建介と別離の挨拶をするわね。彼の女類の中に加えられても私は侮辱されたと思わないわ。その方が気楽よ――
――阿難は今日本当にかなしくってよ。でも、じっとがまんをしているわね。仁科六郎のためによ――
――阿難、かわいそうに――
彼女はぽろりと涙を落した。自動車は、繁華街にちかづいた。
十二
カレワラに、最初にあらわれた客は、仁科たか子であった。
「まあ、いらして下さったのね、ありがとう。嬉しいわ。さあおかけになって、あら、いい御召物ね。えんじ色、よく御似合いだわ」
仁科たか子は狼狽した。
「主人はまだでしょうか」
「あら、もうすぐいらしてよ。さあさ」
その時、蓬莱建介と仁科六郎が、連れだってはいって来た。男同志の友情とはよいものである。道で、仁科六郎に出会った蓬莱建介は、歩きながら今日の期待のことを話したのだ。
「女房の奴、君の妻君
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