中につったっていないと、気が済まない彼女は、その二人の沈黙と併せて、夫の行動が案じられたのだ。彼女は、自分でおかしい程うろたえはじめた。三人からボイコットされている。彼女の心の中には、すでに、南原杉子へのにくしみが存在していた。
蓬莱建介は終電車で帰って来た。黙っている。蓬莱和子の方からは、南原杉子のことを口に出しかねた。愛想よく、夫の着替えを手伝いながら、彼女の内部は、ざわめきがはげしい。蓬莱和子は、貞淑な婦人の持つ感情を、はじめて抱いたのである。
十
仁科六郎が出勤したのは、一週間ぶりの水曜日であった。彼は、喫茶店から阿難に電話をし、阿難は、しかけのスクリプトを持ったまま、すぐにその喫茶店へおもむいた。阿難は、南原杉子のことを仁科六郎に云うつもりであった。けれど、彼の顔をみた途端、口ごもってしまった。お互に話合ったことは、会ったことのよろこびにすぎなかった。そして、その日の午後七時に、二人は再会した。無言であった。抱擁は、すべて気づまりなことを葬ってしまった。阿難は、南原杉子のことも、つづいて蓬莱建介のことも、すっかり忘却していた。だから、仁科六郎の胸にすがりなが
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