ゃちょっと有名ですよ」
「谷山さんも落ちたみたいね」
南原杉子は何気なく笑った。
「だけどいい声だ」
「だれ、ああママさん? 声のいいのは天稟ね。モーツァルトかジプシーソングか」
男は黙っている。
「門外漢だから云えるのね」
男は更に黙っている。
「御趣味拝聴って時間つくればいかが? スポンサーはアルバイト周旋屋」
「女史は何が出来るんですか」
「わたくし? パントマイム」
男は笑った。南原杉子は男を笑わせたことをひどく面白がった。何故なら、この男と二三度会っていながら一度も男の笑いをみたことがなかったからだ。
仁科六郎。彼は、放送会社につとめている。南原杉子は、仕事のことで、彼と事務的な会話をしただけである。
「ここの喫茶店、よく来られるのですか」
「たびたび。でもママさんとは話をしたことがないのよ」
「御紹介しましょうか」
「(興味ある? ありそうね)どうぞ」
丁度、マダムが出て来た。上々の機嫌である。そこで、あたり前の紹介が行われた。
南原杉子。仁科六郎。蓬莱和子。偶然、予期しなかったところに大きなつながりが生れてしまうことはよくあるものだ。その場合、過去になってか
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