莱和子は南原杉子の表情を探ったが、南原杉子は平然としていた。蓬莱和子は、少しがっかりしたのだ。だが、背後の夫に、昨夜のことをきこえがしに云ったことが面白く思えた。
「じゃあ私、失礼してよ。又来ますわ」
蓬莱建介の方に目で挨拶をして、そそくさと出て行った南原杉子。その後。
「どうお」
「お前よりはずっといいね」
蓬莱和子は別に腹をたてなかった。
「ねえ、あれどう思う。ヴァージンかどうか」
「俺の知ったことじゃない」
「ねえ、六ちゃんとらしいのよ」
「で、お前が嫉くというのか、くだらんね。ところで昨夜は、六ちゃんのところへ泊った。それをわざわざ云うあたり、お前の間が抜けてるところさ」
「どうして間が抜けてるんでしょうね。云ったっていいじゃないの」
「反応をみようとしたが、あにはからんや」
「ほっておいて下さいよ。つべこべつべこべうるさいったら」
蓬莱和子は、南原杉子が仁科六郎とどんな交渉しているかということよりも、仁科六郎に対する彼女の感情を知りたいのだ。
――いい加減。私に嫉妬するなり、苦しんだり、それを私に信用ある私に、打ち明けようとすればいい。不気味な愛慾。アネモネの花――
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