としていること、南原杉子は苦笑していた。蓬莱和子は、南原杉子を案外深みのない女だと内心軽蔑した。だが、やはり、あなたは素晴しい人だとほめそやす。あなたに対しては真実なのよと云う。仁科六郎のことが度々話題にのぼった。いい方ですわと、南原杉子は云う。一度、蓬莱和子の視線と、南原杉子の視線が、仁科六郎のことで、しばらくぶつかったことがある。お互の心の中をよみとろうとしたのだ。蓬莱和子の年齢は、嫉妬を相手の女性の前であらわすことを、ひどくみにくいことだと解釈するまでに達していた。南原杉子は、あなたと仁科氏が親しいのをみて嫉けますわ、と云った。蓬莱和子はしばらく優越にひたった。
 仁科六郎と蓬莱和子と時たま会っていた。蓬莱和子は、南原杉子の出現によって、拍車をかけられたように仁科六郎に愛情をもった。蓬莱和子の真実の愛情である。仁科六郎は、蓬莱和子に、南原杉子を愛していると告げた。まあ嫉くわ、六ちゃん。でもあの人ほんといい人ね。それが蓬莱和子の答えであった。そして又、彼女は、仁科六郎に打ちあけられたことだけを南原杉子に告げたものだ。そこで南原杉子は百パーセント確信した。つまり、仁科六郎と蓬莱和子の
前へ 次へ
全94ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング