《ともしび》の光がきらきらと輝いて、細君はまだ寝ずに何人《なんぴと》かとくどくどと話していた。周は窓を舐《な》めて窺《のぞ》いてみた。そこには細君と一人の下男とが一つの杯《さかずき》の酒を飲みあっていたが、その状《さま》がいかにも狎褻《おうせつ》であるから周は火のようになって怒り、二人を執《とら》えようと思ったが、一人では勝てないと思いだしたので、そっと脱けだして成の所へ行って告げた。成は慨然《がいぜん》としてついて来た。そして寝室の前にいくと周は石を取って入口の扉を打った。内ではひどく狼狽《ろうばい》しだした。周はつづけざまに扉を打った。内では必死になって扉を押えて開かないようにした。そこで成が剣を抜いて斬りつけると、扉がからりと開いた。周はすかさず飛びこんでいった。下男が扉を衝《つ》いて逃げだした。扉の外にいた成が剣をもって片手を斬りおとした。周は細君を執えて拷問したところで、自分が獄にいれられた時から下男と私《わたくし》していたということがわかった。周はそこで成の剣を借りて細君の首を斬り、その腸《はらわた》を庭の樹の枝にかけて、成に従って帰山の途についた。と、思ったところで周の眼が醒《さ》めた。自分は寝台の上に臥《ね》ていたのであった。周はびっくりして、
「つじつまの合わない夢を見たのだ。驚いたよ。」
 といった。すると寝台を並べて寝ていた成が笑っていった。
「君は夢を真箇《まこと》にし、真箇を夢にしているのだ。」
 周は愕《おどろ》いてそのわけを問うた。成は剣を出して周に見せた。それにはなまなまと血がついていた。周は驚き懼《おそ》れて気絶しそうにしたが、やがて、それは成の法術で幻《まぼろし》を見せたではあるまいかと疑いだした。成は周の意を知ったので、
「嘘《うそ》か実《まこと》か見て来たらいいだろう。」
 といって、周に旅装をさして送って帰った。そのうちに故郷の入口になると、
「ゆうべ、剣に倚《よ》って待っていたのはここだよ。僕はけがれたものを見るのが厭だから、ここで君の還るのを待とう。もし午《ひる》すぎになって来なかったなら、僕はいってしまうよ。」
 といった。周は成に離れて家へいった。門の戸がしんとしていて空屋のようになっていた。そこで周は弟の家へ入った。弟は兄を見て涙を堕《おと》していった。
「兄さんがいなくなった後で、盗賊が入って、嫂《ねえ》さんを殺
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲 松齢 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング