夫人は怒って小翠の室へ走り込んでいってせめ罵《ののし》った。小翠はただ馬鹿のように笑うのみで弁解しなかった。夫人はますます怒ったがまさか敲くこともできないし、また出そうにも家がないので出すこともできなかった。夫妻は嫁を怨《うら》みもだえて一晩中睡らなかった。
 その当時宰相は権勢が非常に盛んであったが、その風采《ふうさい》は小翠の扮装にそっくりであったから、王給諌も小翠を真の宰相と思った。そこでしばしば王侍御の門口へ人をやってさぐらしたが、夜半になっても宰相の帰っていく気配がなかった。王給諌はそこで宰相と王侍御とが何かもくろんでいると思ったので不安になり、翌日早朝、王侍御に逢って訊いた。
「昨夜宰相があなたの所へいったのですか。」
 王侍御は王給諌がいよいよ自分を中傷しようとするしたがまえだと思ったので、慙《は》じると共にひどく恐れて、はっきりと返事をすることができなかった。王給諌の方では王侍御が言葉を濁すのは確かに宰相がいって何かもくろんでいるから、王侍御を弾劾《だんがい》してはかえって危険であると思って、弾劾することはとうとうやめてしまい、それから王侍御に交際を求めていくようになっ
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