《すく》ったことは、一つの瓶《かめ》位ではありません。なぜすこしは私の顔もたててくれないのです。私は、今、あなたに真《ほんとう》のことをいいます。私は人ではありません。私の母が雷霆《らいてい》の劫《ごう》に遭って、あなたのお父様の御恩を受けましたし、また私とあなたは、五年の夙分《しゅくぶん》がありましたから、母が私をよこして、御恩返しをしたのです。もう私達の宿願は達しました。私がこれまで罵られ、はずかしめられてもいかなかったのは、五年の愛がまだ盈《み》たなかったからですが、こうなってはもうすこしもいることはできません。」
 小翠は威張って出ていった。元豊は驚いて追っかけたがもうどこへいったか見えなかった。王は茫然《ぼうぜん》とした。そして後悔したがおっつかなかった。元豊は室へ入って、小翠の化粧の道具を見て、またしても小翠にいかれたのが悲しくなって、泣き叫んで死のうとまで思った。彼は寝ても睡られず食事をしても味がなかった。彼は日に日に痩せていった。王はひどく心配して、急に後妻を迎えてその悲しみを忘れさせようとしたが、元豊はどうしても忘れなかった。そこで上手な画工《えかき》に小翠の像を画か
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