て笑いをこらえながら、
「私は玉皇《ぎょくこう》の女《むすめ》です、母は知りません。」
 といって真《ほんとう》のことはいわなかった。それから間もなく王侍御は京兆尹《けいちょういん》に抜擢せられた。年はもう五十あまりになっていた。王はいつも孫のないのを患《うれ》えていた。小翠は王の家へ来てからもう三年になっていたが、元豊とは夜よる榻《ねだい》を別にしていた。夫人はその時から元豊の榻をとりあげて、小翠の榻に同寝《ともね》させるようにした。
 ある日、小翠は室で湯あみをしていた。元豊がそれを見て一緒に湯あみをしようとした。小翠は笑い笑いそれを止めて、湯あみをすまし、その後で熱い煮たった湯を甕《かめ》に入れて、元豊の着物を脱ぎ、婢に手伝わして伴れていってその中へ入れた。元豊は湯気に蒸《む》されて苦悶しながら大声を出して出ようとした。小翠は出さないばかりか衾《やぐ》を持って来てそのうえからかけた。
 間もなく元豊は何もいわなくなった。衾をとって見るともう死んでいた。小翠は平気で笑いながら元豊の屍《しかばね》を曳《ひ》きあげて牀《とこ》の上に置き、体をすっかり拭いて乾かし、またそれに被《よぎ》を
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