いながらにして見つかったので、笑顔をして元豊を旁《そば》へ呼んで、だましてその服と冕を脱がせ、風呂敷に包んでいってしまった。王侍御は急いで出て来たが、客がもう帰っていないので、訊いてみるとその事情が解った。王侍御は顛《ふる》えあがって顔色が土のようになった。彼は大声を出して哭《な》いていった。
「もうたすからない。大変なことになった。」
王侍御は陽《ひ》に指をさして、我が一族が誅滅《ちゅうめつ》せられることは、この陽を見るよりも明らかであるといった。王侍御は小翠を殺しても飽きたらないと思った。彼は夫人と杖を持って小翠の室へいった。小翠はもうそれを知って扉を閉めて、二人が何といって罵《のの》ってもそのままにして啓《あ》けなかった。王侍御は怒って斧で扉を破った。小翠は笑いを含んだ声でいった。
「お父様、どうか怒らないでください。私がおりますから。罪があれば私一人が受けます。どんなことがあっても御両親をまぎぞえ[#「まぎぞえ」はママ]にはいたしません。お父様がそんなことをなさるのは、私を殺して人の口をふさごうとなさるのですか。」
王侍御もそこで止めてしまった。家へ帰った王給諌は上疏《じょうそ》して王侍御が不軌《ふき》を謀《はか》っているといって、元豊から剥ぎとった服と冕を証拠としてさし出した。天子は驚いてそれを調べてみると、旒冕《そべん》は糜藁《きびわら》の心《しん》で編んだもので、袞竜《こんりょう》の服は敗れた黄ろな風呂敷《ふろしき》であった。天子は王給諌が人を誣《し》いるのを怒った。また元豊を召したところで、ひどい馬鹿であったから、笑っていった。
「これで天子になれるのか。」
そこでその事件を法司の役人にわたした。その時王給諌はまた王侍御の家に怪《あや》しい人がいると訟《うった》えた。法司の役人は王侍御の家の奴婢を呼び出して厳重に詮議をしたがそれにも異状がなかった。ただお転婆《てんば》の嫁と馬鹿な悴とが毎日ふざけているということが解った。隣家について詮議をしても他に違ったことをいう者がなかった。そこで裁判が決定して、王給諌は雲南《うんなん》軍にやられた。
王侍御はそれから小翠を不思議な女だと思いだした。また母親が久しく来ないので人でないかもわからないと思って、夫人にそれを訊かした。小翠はただ笑うのみで何もいわなかった。二度目にまた問いつめると小翠は口に袂をやっ
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