鳴いた。老人は起きて来て、山に顔を洗わして食事をさした。山はすっかり仕度して金を出した。
「これはすこしですが、食物代にとってください。」
 老人はどうしてもとらなかった。
「一晩の宿じゃないか、金をもらうわけがない。それに婚礼の約束をした間柄じゃないか。」
 山はそこで一家の者と別れて、一ヵ月あまり旅をして返って来た。そして村から一里あまり離れた所へいったところで、老婆が一人の女を伴《つ》れていくのに逢った。それは喪中であろう、冠《ぼうし》から衣服まで皆白いものを着ていた。そして近くへいってみると、どうもその女が阿繊に似ているように思われた。女もまた頻《しき》りにこちらを見ていたが、やがて老婆の袂《たもと》をつかまえて、その耳の傍《そば》へ口を持っていって囁《ささや》いた。老婆は足を停《と》めて山に向っていった。
「あんたは奚《けい》さんではありませんか。」
 山はいった。
「そうですよ。」
 老婆は悲しそうな顔をしていった。
「お爺さんは、崩れかかった牆《かき》に圧しつぶされて死んじゃったよ。今、ちょうど墓詣りにいくところだ。家にはだれもいないから、ちょっと路ばたで待っててください
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