あざけるように言った。「はじめはおどりをおどって、今度は泣《な》くんだもの」
「あの子はあんたのようにばかではないわ」と総領《そうりょう》の姉《あね》が小さい妹をいたわるようにのぞきこみながら答えた。
「この子にはよくわかったのだよ……」
 リーズが父親のひざの上で泣《な》いているあいだにわたしはまたハープを肩《かた》にかけて行きかけた。
「おまえさん、どこへ行く」と植木屋がたずねた。
「おいとまいたします」
「おまえさん、やはり芸人《げいにん》でやっていくつもりかい」
「でもほかにすることがありませんから」
「旅でかせぐのはつらいだろう」
「だってうちがありませんから」
「それはそうだろうが、夜というものがあるからね」
「それは、わたしだって寝台《ねだい》にねたいし、火にも当たりたいと思います」
「火に当たったり寝台にねるには、それそうとう働《はたら》かなければならないが、おまえはどうだね。このうちにいて働く気はないか。なかなか楽な仕事ではないが、それは朝もずいぶん早くから起きて、まる一日働かなければならないけれど、ただおまえがゆうべ出会ったような目にはけっして二度と出会う気づかいは
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