正気は失《うしな》われかけていた。ちょうどきわどいところであった。けれどまだ運ばれて行くという意識《いしき》だけはあった。わたしは救助員《きゅうじょいん》たちが水をくぐって出て行ったあとで、毛布《もうふ》に包《つつ》まれた。わたしは目を閉《と》じた。
また目を開くと昼の光であった。わたしたちは大空の下に出たのだ。同時にだれかとびついて来た。それはカピであった。わたしが技師《ぎし》のうでにだかれていると、ただ一とびでかれはとびかかって来た。かれはわたしの顔を二度も三度もなめた。そのときわたしの手を取る者があった。わたしはキッスを感じた。それからかすかな声でつぶやくのを聞いた。
「ルミ。おお、ルミ」
それはマチアであった。わたしはかれににっこりしかけた。それからそこらを見回した。
おおぜいの人がまっすぐに、二列になってならんでいた。それはだまり返った群集《ぐんしゅう》であった。さけび声を立てて、わたしたちを興奮《こうふん》させてはならないと言つけられたので、かれらはだまっていたが、この顔つきはくちびるの代わりにものを言っていた。いちばん前の列に、なんだか白い法衣《ころも》と錦襴《きん
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