ぐつを切って、しじゅうなめし皮のきれをかんでいた。空腹《くうふく》がどんなどん底《ぞこ》のやみにまでわたしたちを導《みちび》くかということを見て、正直の話、わたしははげしい恐怖《きょうふ》を感じだした。ヴィタリス老人《ろうじん》は、よく難船《なんせん》した人の話をした。ある話では、なにも食べ物のないはなれ島に漂着《ひょうちゃく》した船乗りが、船のボーイを食べてしまったこともある。わたしは仲間《なかま》がこんなにひどい空腹《くうふく》に責《せ》められているのを見て、そういう運命がわたしの上にも向いて来やしないかとおそれた。「先生」と、ガスパールおじさんだけはわたしを食べようとは思えなかったが、パージュとカロリーと、ベルグヌーは、とりわけベルグヌーは長ぐつの皮を食い切るあの大きな白い歯で、ずいぶんそんなことをしかねないと思った。
 一度こんなこともあった。わたしが半分うとうとしていると、「先生」がゆめを見ているように、ほとんどささやくような声で言っていることを聞いてびっくりした。かれは雲や風や太陽の話をしていた。するとパージュとベルグヌーが、とんきょうな様子でかれとおしゃべりを始めた。まる
前へ 次へ
全326ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング