《くも》がどんどん空の上に固《かた》まって出て来た。
「さあ、子どもたち、早くうちへ帰らなければいけない」とお父さんが言った。
「もう」みんなはいっしょにさけんだ。
リーズは口はきけなかったが、やはり帰るのはいやだという身ぶりをした。
「さあ行こう」とお父さんがまた言った。「風が出たらガラスのフレームは残《のこ》らず引っくり返される」
これでもうだれも異議《いぎ》を申し立てなかった。わたしたちはみんなフレームの値打《ねう》ちを知っていた。それが植木屋にどれほどだいじなものかわかっていた。風がうちのフレームをこわしたら、それこそたいへんなことであった。
「わたしはバンジャメンとアルキシーを連《つ》れて先へ急いで行く」とお父さんが言った。
「ルミはエチエネットと、リーズを連れてあとから来るがいい」
かれらはそのままかけだした。エチエネットとわたしはリーズを連れてそろそろ後からついて行った。だれももう笑《わら》う者はなかった。空がだんだん暗くなった。あらしがどんどん来かけていた。砂《すな》けむりがうずを巻《ま》いて上がった。砂が目にはいるので、わたしたちは後ろ向きになって、両手で目をおさえなければならなかった。空にいなずまがひらめいて、はげしいかみなりが鳴った。
エチエネットとわたしがリーズの手を引《ひ》っ張《ぱ》った。わたしたちはもっと早くかの女を引っ張ろうと試《こころ》みたが、かの女はわたしたちと歩調を合わせることは困難《こんなん》であった。あらしの来るまえにうちへ帰れようか。お父さんとバンジャメンとアルキシーはあらしの起こるまえにうちに着いたろうか。かれらがガラスのフレームを閉《し》めるひまさえあれば、風が下からはいって引っくり返すことはないであろう。
雷鳴《らいめい》がはげしくなった。雲がいよいよ深くなって、もうほとんど夜のように思われた。
風に雲のふきはらわれたとき、その深い銅《あかがね》色の底《そこ》が見えた。雲はやがて雨になるであろう。
がらがら鳴り続《つづ》ける雷鳴《らいめい》の中に、ふと、ごうっというひどいひびきがした。一|連隊《れんたい》の騎兵《きへい》があらしに追われてばらばらとかけてでも来るような音であった。
とつぜんばらばらとひょうが降《ふ》って来た。はじめすこしばかりわたしたちの顔に当たったと思ううちに、石を投げるように降《ふ》
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