にならなかった」とかれは続《つづ》けた。「だからねむるつもりであすこへはいった。だがぼくはねむれずにいた。するうちきみの父さんと一人の紳士《しんし》がうまやの中へはいって来た。その人たちの言うことを残《のこ》らずぼくは聞いたのだ。はじめはぼくも聞く耳を立てるつもりではなかったが、のちにはそれをしずにいられないようになった。
『どうして、岩のようにじょうぶだ』とその紳士《しんし》が言った。『十人に九人までは死ぬものだが、あれは肺炎《はいえん》の危険《きけん》を通りこして来た』
『おいごさんはどうですね』ときみの父さんがたずねた。
『だんだんよくなるよ。三月《みつき》まえも医者がまたさじを投げた。だが母親がまた救《すく》った。いや、あれはふしぎな母親だよ。ミリガン夫人《ふじん》という女は』
 ぼくがこの名前を聞いたとき、どうして窓《まど》に耳をくっつけずにはいられたと思うか。
『ではおいごさんがよくなるのでは、あなたの仕事はむだですね』ときみの父さんがことばを続《つづ》けた。
『さしあたりはまずね』ともう一人が答えた。『だがアーサがこのうえ生きようとは思えない。それができれば奇跡《きせき》というものだ。おれは奇跡を心配しない。あれが死ねば、あの財産《ざいさん》の相続人《そうぞくにん》はおれのほかにはないのだ』
『ご心配なさいますな。わたしが見ています』とドリスコルさんが言った。
『ああ、おまえに任《まか》せておくよ』とミリガン氏《し》が答えた」
 これがマチアの話すところであった。
 マチアのこの話を聞きながら、わたしの初《はじ》めの考えは、父親にすぐたずねてみることであったが、立ち聞きをされたことを知らせるのは、かしこいしかたではなかった。ミリガン氏《し》は父親と打ち合わせる仕事があるとすれば、たぶんまたうちへ来るだろう。このつぎは向こうで顔を知らないマチアが、あとをつけることもできる。
 それから二、三日ののち、マチアはぐうせん往来《おうらい》で、以前《いぜん》ガッソーの曲馬団《きょくばだん》で知り合いになったイギリス人のボブに出会った。わたしはとちゅうでかれがマチアにあいさつするところを見て、ひじょうに仲《なか》のいいことがわかった。
 かれはまたすぐとカピやわたしが好《す》きになった。その日からわたしたちはこの国に一人、しっかりした友だちができた。かれはその経験
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