もらったよりもずっとありがたいと言ったが、きっときっとリーズもこのおくり物と同じように考えるだろうと思った。わたしはかの女に人形をやろうと思った。幸い人形は雌牛《めうし》のように高くはなかった。わたしたちが通ったつぎの村で、わたしは美しい髪《かみ》の毛《け》と、青い目をしたかわいらしい人形をかの女のために買った。
運河《うんが》の岸を歩きながら、わたしはたびたびミリガン夫人《ふじん》と、アーサと、それからかれらの美しい小舟《こぶね》のことを思い出していた。その小舟に運河《うんが》の上で出会いはしないかと思っていたが、でもわたしたちはついにそれを見なかった。
とうとうある日の夕方、わたしたちはリーズの住んでいるうちを遠方から見る所まで来た。それは木のしげった中にあった。きりでかすんだ中にあるらしかった。大きな炉《ろ》の明かりに照《て》らされた窓《まど》を見ることもできた。だんだんとそばに近づくに従《したが》って、赤みを持った光が、わたしたちの通り道に投げられた。わたしの心臓《しんぞう》はとっとっと打った。わたしはかれらがそのうちの中で夕飯《ゆうめし》を食べている姿《すがた》を見ることができた。ドアと窓《まど》は閉《と》じられていたが、窓にはカーテンがなかったから、わたしは中をのぞきこんで、リーズがおばさんのそばにすわっているところを見た。わたしはマチアとカピに静《しず》かにするように合図をして、それから肩《かた》からハープを下ろして、それを地べたの上に置《お》いた。
「ああ、なるほど」とマチアがささやいた。「セレナードをやるか。なるほどうまい考えだ」
わたしは例《れい》のナポリ小唄《こうた》の第一|節《せつ》をひいた。声でさとられてはいけないと思って歌は歌わなかった。わたしはひきながら、リーズのほうを見た。かの女は急いで顔を上げたが、その目はかがやいていた。
それからわたしは歌い始めた。かの女はいすからとび下りて、戸口へかけて来た。まもなくかの女はわたしのうでにだかれていた。
カトリーヌおばさんがそれから出て来て、わたしたちを夕飯《ゆうめし》に呼《よ》んでくれた。リーズは急いで食卓《しょくたく》の上におさらを二つならべた。
「おいやでなければ」とわたしは言った。「もう一|枚《まい》おさらを出してください。ぼくたちはもう一人かわいらしいお友だちを連《つ》れて来
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