がわかった。わたしにはかれがそんなに悲しく思うわけがわからなかった。でもあとになって、それはある悲しい事情《じじょう》から初《はじ》めてわかった。いずれわたしの話の進んだとき、それを言うおりがあるであるう。
 そのあくる日、かれは小さく木を切って文字を作ったと同様に音譜《おんぷ》をこしらえた。
 音譜はABC《アベセ》より入りくんでいた。今度は習うのにもいっそう骨《ほね》も折《お》れたし、たいくつでもあった。あれほど犬に対してしんぼうのいい親方も、一度ならずわたしにはかんにんの緒《お》を切ったこともあった。かれはさけんだ。
「畜生《ちくしょう》に対しては、かわいそうな、口のきけないものだと思ってがまんするけれど、おまえではまったく気ちがいにさせられる」と、こうかれは言って、芝居《しばい》のように両手を空に上げて、急にまた下に下ろして、はげしくももを打った。
 自分がおもしろいと思うと、まねをしてはおもしろがっているジョリクールは、今度も主人の身ぶりをまねていた。毎日わたしのけいこのときに、さるはいつもそばにいるので、わたしがつかえでもすると、そのたんびにがっかりした様子をして、かれが両
前へ 次へ
全320ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング