目を放さなかった。「おまえはこの字を形で覚《おぼ》えるのだ。それを一目見てなんだということがわかれば、それをいろいろに組み合わせてことばにするけいこをするのだ。ことばが読めるようになれば、本を習うことができるのだ」
 やがてわたしのかくしはその小さな木ぎれでいっぱいになった。それでABC《アベセ》の字を覚《おぼ》えるのにひまはかからなかったけれども、読むことを覚えるのは別《べつ》の仕事であった。なかなか早くはいかないので、ときにはなぜこんなものを教わりたいと言いだしたかと思って、後悔《こうかい》した。でもこれは、わたしがなまけ者でもなく、負けおしみが強かったからである。
 わたしに字を教えながら親方は、それをいっしょにカピにも教えてみようかと思い立った。犬は時計から時間を探《さが》し出すことを覚《おぼ》えたくらいだから、文字を覚えられないことはなかった。それでカピとわたしは同級生になって、いっしょにけいこを始めた。犬はもちろん口で言えないから、木ぎれが残《のこ》らず草の上にまき散《ち》らされると、かれは前足で、言われた文字をその中から拾い出して来なければならなかった。
 はじめはわたし
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