て、首の回りにかけていたむちをわたした。
「いいえ、そんなことをしてはいけない」とおっかあはさけんだ。
それでルセットのはづな(馬の口につけて引くつな)をつかまえながら、優《やさ》しく言った。
「さあ、おまえ出ておくれ。ねえ、いいかい」
ルセットはそれをこばむことができなかった。それで往来《おうらい》へ出ると、ばくろうはルセットを車の後ろにしばりつけた。馬がとことこかけだすと、ルセットはいやでもあとからついて行かなければならなかった。
わたしたちはうちの中にはいったが、しばらくのあいだまだルセットの鳴き声が聞こえていた。
もう乳《ちち》もなければバターもない。朝は一きれのパン、晩《ばん》は塩《しお》をつけたじゃがいものごちそうであった。
雌牛《めうし》を売ってから四、五日すると、謝肉祭《しゃにくさい》が来た。一年まえのこの日には、バルブレンのおっかあが、わたしにどら焼《や》きと揚《あ》げりんごのごちそうをこしらえてくれた。それでたくさんわたしが食べると、おっかあはごきげんで、にこにこしてくれた。
けれどそのときは揚《あ》げ物《もの》の衣《ころも》がパン粉《こ》をとかす乳《ち
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