い。どうしてすばらしいものだ」
「でもぼく、どうしていいのかわからないんです」
「それだからそんなにうまくやれるのだ。おまえに芝居《しばい》がわかるとかえって、いま思っているようなことをわざとするようになるだろう。なんでもいまのどうしていいかわからずに困《こま》っている心持ちを忘《わす》れないようにしてやれば、いつも上出来だよ。つまり役の性根《しょうね》は、さると人間が、主人と家来と身分を取りかえたついでに、ばかをりこうと取りかえて、とんだあほうの取りちがえ、これが芝居《しばい》のおかしいところなのだ」
 『ジョリクール氏《し》の家来』は大芝居《おおしばい》というのではなかったから、二十分より長くは続《つづ》かなかった。ヴィタリスはわたしたちにたびたびそれをくり返させた。わたしは主人がずいぶんしんぼう強いのでおどろいた。これまで村でよく動物をしこむところを見たが、ひどくしかったり、ぶったりしてやっとしこむのであった。ずいぶんけいこは長くやったが、親方は一度もおこったこともなければ、しかったこともなかった。
「さあ、もう一度やり直しだ」とかれは厳《きび》しい声で言って、いけないところを直
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