《ろうじん》は食料《しょくりょう》なしに旅をするような不注意《ふちゅうい》な人ではなかった。かれは背中《せなか》にしょっていた背嚢《はいのう》から一かたまりのパンを出して、四きれにちぎった。
 さてこのときわたしははじめて、かれがどういうふうにして、仲間《なかま》の規律《きりつ》を立てているかということを知った。さっきわれわれが一けん一けん宿《やど》を探《さが》して歩いたとき、ゼルビノがある家にはいったが、さっそくかけ出して来たとき、パンの切れを口にくわえていた。そのとき老人《ろうじん》はただ、
「よしよし、ゼルビノ……今夜は覚《おぼ》えていろ」とだけ言った。
 わたしはもうゼルビノのどろぼうをしたことは忘《わす》れて、ヴィタリスがパンを切る手先をぼんやり見ていた。ゼルビノはしかしひどくしょげていた。
 ヴィタリスとわたしはとなり合ってジョリクールをまん中に置《お》いて、二つあるわらのたばの上、かれ草のたばの上にこしをかけて、三びきの犬はその前にならんでいた。カピとドルスは主人の顔をじっと見つめているのに、ゼルビノは耳を立ててしっぽを足の間に入れて立っていた。
 老人《ろうじん》は命令
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