はその晩《ばん》一晩じゅううちをはなれないので話す機会《きかい》がなかった。
 すごすごねどこにもぐりながら、あしたは話してみようと思っていた。
 けれどそのあくる日起き上がると、おっかあの姿《すがた》が見えない。わたしがそのあとを追ってうちじゅうをくるくる回っているのを見て、なにをしているとバルブレンは聞いた。
「おっかあ」
「ああ、それなら村へ行った。昼過《ひるす》ぎでなければ帰るものか」
 おっかあはまえの晩《ばん》、村へ行く話はしなかった。それでなぜというわけはないが、わたしは心配になってきた。わたしたちが昼過ぎから出かけるというのに、どうして待っていないのだろう。わたしたちの出かけるまえにおっかあは帰って来るかしらん。
 なぜというしっかりしたわけはないのだが、わたしはたいへんおどおどしだした。
 バルブレンの顔を見るとよけいに心配が積《つ》もるばかりであった。その目つきからにげるためにわたしは裏《うら》の野菜畑《やさいばたけ》へかけこんだ。
 畑といってもたいしたものではなかった。それへなんでもうちで食べる野菜物《やさいもの》は残《のこ》らずじゃがいもでもキャベツでも、にん
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