なことには、老人が立ち上がると、ひつじの毛皮服がむずむず動いて、むっくり高くなった。たぶん、もう一ぴき犬をうでの下にかかえているのだとわたしは思った。
この人たちは、いったいわたしをどうしようというのだろう。わたしの心臓《しんぞう》がまたはげしく打ち始めた。わたしはちっとも老人《ろうじん》から目をはなすことができなかった。
「おまえさんはこの子のためにだれか金を出さない以上《いじょう》、自分のうちに置《お》いて養《やしな》っていることはいやだという、それにちがいないのだろう」
「それはそのとおりだ……そのわけは……」
「いや、わけはどうでもよろしい。それはわたしにかかわったことではない。それでもうこの子が要《い》らないというのなら、すぐわたしにください。わたしが引き受けようじゃないか」
「おや、おまえさんはこの子を引き受けると言うのかね」
「だっておまえさんはこの子をほうり出したいんだろう」
「おまえさんにこんなきれいな子をやるのかえ。この子は村でもいちばんかわいい子だ。よく見てくれ」
「よく見ているよ」
「ルミ、ここへ来い」
わたしは食卓《しょくたく》に進み寄《よ》った。ひざはふ
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