あくる日になると、いよいよわたしは心配でおどおどしながら、芝居《しばい》をするはずのさかり場まで行列を作って行った。
 親方が先に立って行った。背《せい》の高いかれは首をまっすぐに立て、胸《むね》を前へつき出して、おもしろそうにふえでワルツをふきながら、手足で拍子《ひょうし》をとって行った。その後ろにカピが続《つづ》いた。イギリスの大将《たいしょう》の軍服《ぐんぷく》をまねた金モールでへりをとった赤い上着を着、鳥の羽根《はね》でかざったかぶとをかぶったジョリクールがその背中《せなか》にいばって乗っていた。
 ゼルビノとドルスが、ほどよくはなれてそのあとに続いた。
 わたしがしんがりを務《つと》めていた。わたしたちの行列は親方の指図どおり適当《てきとう》な間をへだてて進んだので、かなり人目に立つ行列になった。
 なによりも親方のふくするどいふえの音《ね》にひかれて、みんなうちの中からかけ出して来た。とちゅうの家の窓《まど》という窓はカーテンが引き上げられた。
 子どもたちの群《む》れがあとからかけてついて来た。やがて広場に着いたじぶんには、わたしたちの行列に、はるか多い見物の行列がつながって、たいした人だかりであった。
 わたしたちの芝居小屋《しばいごや》はさっそくできあがった。四本の木になわを結《むす》び回して、その長方形のまん中にわたしたちは陣取《じんど》ったのである。
 番組の第一は犬の演《えん》じるいろいろな芸当《げいとう》であった。わたしは犬がなにをしているかまるっきりわからなかった。わたしはもう心配で心配で自分の役を復習《ふくしゅう》することにばかり気を取られていた。わたしが記憶《きおく》していたことは、親方がふえをそばへ置《お》き、ヴァイオリンを取り上げて、犬のおどりに合わせてひいたことで、それはダンス曲であることもあれば、静《しず》かな悲しい調子の曲であることもあった。なわ張《ば》りの外に見物はぞろぞろ集まっている。わたしはこわごわ見回すと、数知れないひとみの光がわたしたちの上に集まっていた。
 一番の芸当《げいとう》が終わると、カピが歯の間にブリキのぼんをくわえて、お客さまがたの間をぐるぐる回りを始めた。見物の中で銭《ぜに》を入れない者があると、立ち止まって二本の前足をこのけちんぼうなお客のかくしに当てて、三度ほえて、それから前足でかくしを軽くたたい
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