でいた。わたしもかれらの例《れい》にならおうと考えた。けさは早かった。いつやむか、見当のつかない雪を見てくよくよしているよりも、白鳥号に乗って、ゆめの国にでも遊んだほうが気が利《き》いている。
わたしはどのくらいねむったか知らなかった。目が覚《さ》めると雪がやんでいた。わたしは外をながめた。雪はひじょうに深かった。無理《むり》に出て行けばひざの上までうずまりそうであった。
何時だろう。
わたしはそれを親方にたずねることができなかった。なぜなら例《れい》のカピが時間を示《しめ》した大きな銀時計は売られてしまった。かれは罰金《ばっきん》や裁判《さいばん》の費用《ひよう》をはらうためにありったけの金を使ってしまった。そしてディジョンでわたしの毛皮服を買うときに、その大きな時計も売ってしまったのであった。
時計を見ることができないとすれば、日の加減《かげん》で知るほかはないが、なにぶんどんよりしているので、何時だか時間を推量《すいりょう》するのが困難《こんなん》であった。
なんの物音も聞こえなかった。雪はあらゆる生物の活動をそれなりこおらせてしまったように思われた。
わたしは小屋の入口に立っていると、親方の呼《よ》ぶ声が聞こえた。
「これから出て行けると思うかな」とかれはたずねた。
「わかりません。あなたのいいようにしたいと思います」
「そうか、わたしはここにいるほうがいいと思う。まあまあ屋根はあるし、たき火もあるのだから」
それはほんとうであったが、同時にわたしは食物のないことを思い出した。けれどもわたしはなにも言わなかった。
「どうせまた雪は降《ふ》ってくるよ。とちゅうで雪に会ってはたまらない。夜はよけい寒くなる。今夜はここでくらすほうが無事《ぶじ》だ。足のぬれないだけでもいいじゃないか」
そうだ。わたしたちはこの小屋に逗留《とうりゅう》するほかはない。胃《い》ぶくろのひもを固《かた》くしめておく、それだけのことだ。
夕飯《ゆうはん》に親方が残《のこ》りのパンを分けた。おやおや、もうわずかしかなかった。すぐに食べられてしまった。わたしたちはくずも残《のこ》さず、がつがつして食べた。このつましい晩食《ばんしょく》がすんだとき、犬はまたさっきのようにあとねだりをするだろうと思っていたが、かれらはまるでそんなことはしなかった。今度もわたしは、どのくらいかれら
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