の》をするように、おりおり左のほうへ目を注ぐのを見たが、かれはなにも言わなかった。なにをかれは見つけようとするのであろう。
わたしは長い道の向こうばかりまっすぐに見ていた。この森がもうほどなくおしまいになって、人家が現《あらわ》れてきはしないかという望《のぞ》みをかけていた。
だが目の届《とど》く限《かぎ》り両側《りょうがわ》は雪にうずまった林であった。前はもう二、三間(四〜五メートル)先が雪でぼんやりくもっていた。
わたしはこれまで暖《あたた》かい台所の窓《まど》ガラスに雪の降《ふ》るところを見ていた。その暖かい台所がどんなにかはるか遠いゆめの世界のように思われることであろう。
でもやはり行くだけは行かなければならなかった。わたしたちの足はだんだん深く雪の中にもぐりこんだ。そのときふと、なにも言わずに親方が左手を指さした。なるほど、わたしはぼんやりと、空き地の中に堀立小屋《ほったてごや》のようなものを見た。
わたしたちはその小屋に通う道を探《さが》さなければならなかった。でも雪がもう深くなって、道という道をうずめてしまったので、これは困難《こんなん》な仕事であった。わたしたちはやぶの中をかけ回って、みぞをこえて、やっとのことで小屋へ行く道を見つけて中へはいることができた。
その小屋は丸太《まるた》やしばをつかねて造《つく》ったもので、屋根も木のえだのたばを積《つ》み重ねて、雪が間から流れこまないように固《かた》くなわでしめてあった。
犬たちはうれしがって、元気よく先に立ってかけこんだ、ほえながらたびたびかわいた土の上をほこりを立てて転《ころ》げ回《まわ》っていた。
わたしたちの満足《まんぞく》もかれらにおとらず大きかった。
「こういう森の中の木を切ったあとには、きこりの小屋があるはずだと思っていた」と親方が言った。「もういくら雪が降《ふ》ってもかまわないぞ」
「そうですとも。雪なんかいくらでも降れだ」とわたしは大いばりで言った。
わたしは戸口――というよりも小屋に出入《しゅつにゅう》する穴《あな》というほうが適当《てきとう》で、そこにはドアも窓《まど》もなかったが――そこまで行って、わたしは上着とぼうしの雪をはらった。せっかくのかわいた部屋《へや》をぬらすまいと思ったからである。
わたしたちの宿《やど》の構造《こうぞう》はしごく簡単《かんたん》
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