でもそれはいつも白鳥号ではなかった。
ときどきわたしは思い切って船頭に聞いてみた。わたしの探《さが》す美しい船の模様《もよう》を話して、そういう船を見なかったかとたずねた。でもかれらはけっしてそういう船の通るのを見たことがなかった。
このごろでは親方も、わたしをミリガン夫人《ふじん》にわたそうと決心していた。少なくともわたしにはそう想像《そうぞう》されたから、もはやわたしの素性《すじょう》を告《つ》げたり、バルブレンのおっかあに手紙をやったりされるおそれがなくなった。そのほうの事件《じけん》は親方とミリガン夫人との間の相談《そうだん》でうまくまとめてくれるだろう。そう思って、わたしの子どもらしいゆめでいろいろに事件を処理《しょり》してみた。ミリガン夫人はわたしをそばに置《お》きたいと言うだろう。親方はわたしに対する権利《けんり》を捨《す》てることを承知《しょうち》してくれるだろう。それでいっさい事ずみだ。
わたしたちは何週間もリヨンに滞在《たいざい》していた。そのあいだひまさえあればいく度もわたしはローヌ川と、ソーヌ川の波止場《はとば》に行ってみた。おかげでエーネー、チルジット、ラ・ギョッチエール、ロテル・デューなどという橋のことは、生えぬきのリヨン人同様によく知っていた。
しかしやはりわからなかった。とうとう白鳥号を見つけることはできなかった。
わたしたちはとうとうリヨンを去らなければならなかった。そしてディジョンに向かった。それでわたしはもうミリガン夫人《ふじん》に二度と会う希望《きぼう》を捨《す》てなければならなかった。それはリヨンでフランス全国の地図を調べてみたが、どうしても白鳥号がロアール川に出るには、これより先へ川を上って行くことのできないことを知ったからであった。船はシャロンのほうへ別《わか》れて行ったのであろう。そう思ってわたしたちはシャロンに着いたが、やはり船を見ることなしにまた進まなければならなかった。これがわたしの夢想《むこう》の結末《けつまつ》であった。
いよいよいけなくなったことは、冬がいまや目近《まぢか》にせまってきたことであった。わたしたちは目も見えないような雨とみぞれの中をみじめに歩き回らなければならなかった。夜になってわたしたちがきたない宿屋《やどや》かまたは物置《ものお》き小屋《ごや》につかれきってたどり着くと、もうは
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