にちがいなかった。わたしはミリガン夫人とアーサを心から愛《あい》していた。
「ルミがわたしたちの所にいても、いいことばかりはないでしょう」とミリガン夫人《ふじん》は続《つづ》けた。
「この船にだって遊び半分ではいられません。ルミもやはりあなたと同じようにたくさん勉強をしなければなりません。とても青空の下で旅をして回るような自由な境涯《きょうがい》ではないでしょう」
「ああ、ぼくの思っていることがおわかりでしたら……」とわたしは言いかけた。
「ほらほらね、お母さま」とアーサが口を出した。
「ではわたしたちがこれからしなければならないことは」とミリガン夫人《ふじん》が言った。「この子の親方の承諾《しょうだく》を受けることです。わたしはまあ手紙をやってここへ来てもいようにたのんでみましょう。こちらからツールーズへは行かれないからね。わたしは汽車賃《きしゃちん》を送ってあげて、なぜこちらから汽車に乗って行かれないか、そのわけをよく書いてあげましょう。つまりこちらへ呼《よ》ぶことになるのだが、たぶん承知《しょうち》してくださることだろうと思うから、それで相談《そうだん》したうえで、親方がこちらの申し出を承知してくだされば、今度はあなたのご両親と相談することにしましょう。むろんだまっていることはできないからね」
 この最後《さいご》のことばで、わたしの美しいゆめは破《やぶ》れた。
 両親に相談《そうだん》する。そうしたらかれらはわたしが内証《ないしょう》にしようとしていることをすぐ言いたてるだろう。わたしが捨《す》て子《ご》だということを言いたてるだろう。
 ああ捨《す》て子《ご》。そうなればアーサもミリガン夫人《ふじん》もわたしをきらうようになるだろう。
 まあ自分の父親も母親も知らない子どもが、アーサの友だちであったか。
 わたしはミリガン夫人の顔をまともにながめた。なんと言っていいか、わたしはわからなかった。かの女はびっくりしてわたしの顔を見た。わたしがどうしたのか、かの女はたずねようとしたが、わたしはそれに答えもできずにいた。たぶん親方が帰って来るという考えに気が転倒《てんとう》していると考えたらしく、かの女はそのうえしいては問わなかった。
 幸いにじきねむる時間が来たので、アーサからいつまでもふしぎそうな目で見られずにすんだ。やっと心配しながら自分の部屋《へや》に一人
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