なきれを分け合った。それで朝飯《あさめし》もあっけなくすんでしまった。
わたしたちはきょうこそいくらかでももうけなければならなかった。わたしは村の中を歩いて、どこか芝居《しばい》につごうのいい場所を見つけようとした。それに村の人びとの顔色を見て、敵《てき》か味方か探《さぐ》ろうとした。
わたしの考えはすぐに芝居を始めようというのではなかった。それには時間があまり早すぎた。けれどいい場所が見つかれば、昼ごろ帰って来て、わたしたちの運命を決する機会《きかい》をとらえるつもりであった。
わたしがこの考えに心をうばわれていると、ふとだれか後ろからとんきょうな声を上げる者があった。あわててわたしがふり向くと、ゼルビノがわたしのほうへ向かってかけて来る。そのあとから一人のおばあさんが追っかけて来るのを見た。もうすぐ何事が起こったかということはわかった。わたしがほかへ気を取られているすきをねらって、ゼルビノは一けんの家にかけこんで、肉を一きれぬすみだしたのであった。かれはえものを歯の間にくわえたまま、にげ出して来たのであった。
「どろぼう、どろぼう」とおばあさんはさけんだ。「そいつをつかまえておくれ。そいつらみんなつかまえておくれ」
おばあさんのこう言うのを聞いて、わたしはとにかく自分にも罪《つみ》がある。いやすくなくともゼルビノの犯罪《はんざい》に責任《せきにん》があると感じた。そこでわたしはかけ出した。もしおばあさんがぬすまれた肉の代価《だいか》を請求《せいきゅう》じたら、なんと言うことができよう。どうして金をはらうことができよう。それでわたしたちがつかまえられれば、きっと刑務所《けいむしょ》に入れられるだろう。
わたしがにげ出して行くのを見て、ドルスとカピもさっそくわたしの例《れい》にならった。かれらはわたしのかかとについて走った。ジョリクールはわたしの肩《かた》に乗ったまま、落ちまいとしてしっかり首にかじりついた。
だれかほかの者もさけんでいた。待て、どろぼう……そしてほかの人たちも仲間《なかま》になって追っかけていた。けれどもわたしたちはどんどんかけた。恐怖《きょうふ》がわたしたちの速力《そくりょく》を進めた。わたしはドルスがこんなに早く走るのを見たことがなかった。かの女の足はほとんど地べたについていなかった。横町を曲がって、野原をつっ切って、まもなくわたし
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