いてくれなければだめだ。そうすればおたがいの力でなにかできるかもしれない。おまえたちはみんなしていっしょうけんめい、ぼくを助けてくれなければならない。わたしたちはおたがいにたより合ってゆきたいと思うのだ」
 こういったわたしのことばが、残《のこ》らずかれらにわかったろうとはわたしも言わないが、だいたいの趣意《しゅい》は飲みこめたらしかった。かれらは同じ考えになってはいた。かれらは親方のいなくなったについて、そこになにか大事件《だいじけん》が起こったことを知っていた。それでその説明《せつめい》をわたしから聞こうとしていた。かれらがわたしの言って聞かせた残《のこ》らずを理解《りかい》しなかったとしても、すくなくともわたしがかれらの身の上を心配してやっていることには満足《まんぞく》していた。それでおとなしくわたしの言うことに身を入れて聞いて、満足《まんぞく》の意味を表していた。
 いやお待ちなさい。なるほどそれも、犬の仲間《なかま》だけのことで、ジョリクールには、いつまでもじっとしていることが望《のぞ》めなかった。かれは一分間と一つ事に心を向けていることができなかった。わたしの演説《えんぜつ》の初《はじ》めの部分だけはかれも殊勝《しゅしょう》らしくたいへん興味《きょうみ》を持って傾聴《けいちょう》していたが、二十とことばを言わないうちに、かれは一本の木の上にとび上がって、わたしたちの頭の上のえだにぶら下がり、それからつぎのえだへととび回っていた。カピが同じやり方でわたしを侮辱《ぶじょく》したならば、わたしの自尊心《じそんしん》はずいぶん傷《きず》つけられたにちがいなかった。けれどもジョリクールがどんなことをしようと、わたしはけっしておどろかなかった。かれはずいぶん頭の空っぽな、軽はずみなやつだった。
 けれどそうはいうものの、少しはふざけたいのもかれとして無理《むり》はなかった。わたしだってやはり同じことをしたかったと思う。わたしもやはりおもしろ半分木登りをしてみたかった。けれどもわたしの現在《げんざい》の位置《いち》の重大なことが、わたしにそんな遊びをさせなかった。
 しばらく休んだあとで、わたしは出発の合図をした。わたしたちはどうせ、どこかただでとまる青天井《あおてんじょう》の下を見つけさえすればいいのだから、なにより、あしたの食べ物を買う銭《ぜに》をいくらかでももう
前へ 次へ
全160ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング